大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(ワ)6065号 判決

原告 吉野武之介

右訴訟代理人弁護士 三森淳

同 塩生三郎

被告 髙野将弘

〈ほか一名〉

補助参加人 株式会社 グリーンキャブ

右代表者代表取締役 髙野公秀

右三名訴訟代理人弁護士 氏家茂雄

主文

一  被告両名は、原告に対し、各自金一、八〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一〇月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告両名の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告両名は、原告に対し、各自金八〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一〇月六日から支払ずみまで被告髙野将弘については年六分、被告吉井金次郎については年五分の割合による金員を各支払え。

2  訴訟費用は被告両名の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和三五年三月一五日訴外株式会社大利根カントリー倶楽部(以下「訴外倶楽部」という。)から、原告は株券番号あ第〇七九五号の株券兼会員権一株を、訴外金井田与一郎は株券番号あ第〇七九四号の株券兼会員権一株(以下「本件株券」という。)を、それぞれ四五万円で買い受け、訴外大利根カントリー倶楽部の株主兼会員となった。

2  その後、昭和四〇年二月ころ原告と金井田与一郎は、株券番号あ第〇七九五号の株券と本件株券とを交換した。

3  被告髙野は補助参加人(当時商号は太平交通株式会社であったが、のちに株式会社グリーンキャブに変更)の代表取締役、被告吉野は補助参加人の経理部長であったが、共謀の上昭和五五年一二月三日東京簡易裁判所に対し補助参加人名義で補助参加人が所有保管していた本件株券を紛失したとの虚偽の事実を理由にして本件株券につき公示催告の申立てをなし、昭和五六年九月二五日除権判決を得て本件株券を失効させ、本件株券に代わる新株券の交付を受けて、昭和五七年四月一七日これを右事情を知らない第三者に売り渡した。

被告両名は、東京簡易裁判所に公示催告の申立てを行った当時、本件株券が原告の所有に属するもので一度も補助参加人の資産として取り扱われたことのないこと、本件株券は原告が取得して以降原告の自宅において保管されていたことを知っていたし、仮にそうでないとしても被告両名が補助参加人の帳簿類を調査確認し、補助参加人の関係者に事情を聴取すれば容易に右事実を知り得たのに、右調査等を行うことなく、被告吉井において虚偽の内容を記載した上申書を作成し、前記のとおり本件株券について公示催告の申立てをなし除権判決を得て本件株券を失効させ、新株券の交付を受けて第三者に売り渡したのは、被告両名の故意又は過失に基づく違法行為である。

4  原告は被告両名の違法行為により訴外倶楽部の株主権及び会員権を失い少なくとも八、〇〇〇万円の損害を被った。

なお、原告は補助参加人に対し本件株券の名義を預け同社の接待用として会員権を無償で使用させる契約(以下「本件名義使用契約」という。)を締結していたところ、原告は昭和六二年一〇月五日補助参加人との本件名義使用契約を本件株券が失効したことによる履行不能を理由に解除した。原告が被った損害額の算定に当たっては右解除がなされた昭和六二年一〇月五日時点の本件株券の価格を基準とすべきである。

よって、原告は被告両名各自に対し、金八、〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の日ののちである昭和六二年一〇月六日から支払ずみまで被告髙野については商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、被告吉井については民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は否認する。補助参加人が大利根カントリー倶楽部の株式を二株取得し、原告と金井田与一郎が法人正会員になったにすぎない。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実のうち、被告髙野が補助参加人の代表取締役、被告吉野が補助参加人の経理部長であったこと、被告髙野が昭和五五年一二月三日東京簡易裁判所に対し補助参加人名義で補助参加人が所有保管していた本件株券を紛失したことを理由に公示催告の申立てをなし、昭和五六年九月二五日除権判決を得て、本件株券に代わる新株券の交付を受けて昭和五七年四月一七日これを第三者に売り渡したことは認め、その余の事実は否認する。

4  同4は争う。除権判決は本件株券を無効にするだけであり、実質的な権利関係に影響を与えるものではないから、原告には損害が発生していない。

三  被告両名の主張

1(一)  仮に、原告が訴外倶楽部の株主であったとしても、原告は昭和四〇年二月ころ補助参加人との間で本件名義使用契約を締結した。

(二) 本件名義使用契約は原告が補助参加人の取締役を辞任した昭和五一年四月三〇日原告と補助参加人との間で黙示的に合意解約されたし、仮にそうでなくても補助参加人の原告に対する本件株券の名義返還債務の履行期限は到来した。

(三) 本件名義使用契約は補助参加人にとって商行為であるから、昭和五六年四月三〇日の経過をもって原告の補助参加人に対する本件株券の名義返還請求権は時効により消滅したので、補助参加人は本訴において右時効を援用する。

(四) 被告髙野が除権判決の結果補助参加人が取得した新株券を第三者に売却したのは昭和五七年四月一七日であり、原告の補助参加人に対する本件株券の名義返還請求権が既に時効により消滅したのちのことであるから、被告髙野の右新株券の売却行為は原告に対する違法行為とはならないし、これにより原告に損害が発生するものではない。

2  原告は昭和五〇年以降補助参加人に対して本件株券の名義の返還を請求し得る機会をたびたび有しており、原告が右返還請求権を行使していれば、公示催告の申立ては取り下げられ原告の損害も生じなかった。しかし、原告は一度も本件株券の名義返還請求権を行使しなかったのであり、このことは原告の過失であり損害算定において斟酌されるべきである。

四  被告両名の主張に対する原告の認否

1  被告両名の主張1(一)の事実は認めるが、同(二)ないし(四)は争う。

2  同2は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  原告は昭和三五年三月一五日訴外倶楽部から原告と金井田与一郎がそれぞれ四五万円で株券兼会員権を買い受け、訴外倶楽部の株主兼会員になったと主張し、被告らは補助参加人が訴外倶楽部の株券を買い受けて株主となり、原告と金井田与一郎は法人正会員になったにすぎないと主張するので、まずこの点を判断する。

《証拠省略》によれば、昭和三五年三月一五日補助参加人(当時の商号は太平交通株式会社であり、昭和五八年七月一日に補助参加人に商号変更)が訴外倶楽部に対し株券の買い受けを申し込み、株券番号あ第〇七九五号の株券と本件株券の割当てを受けて訴外倶楽部の株主となり、原告及び金井田与一郎は株主たる補助参加人の指定により訴外倶楽部が所有しかつ経営するゴルフ場及びその附帯施設において会員が快適なゴルフプレーを楽しみかつ会員相互の親睦を図ることを目的として設立された訴外大利根カントリークラブの法人正会員となっていたこと(金井田与一郎が本件株券についての法人正会員であり、原告が株券番号あ第〇七九五号についての法人正会員であった。)が認められる。

ところで、原告本人は、右の点について金井田与一郎は補助参加人を経営する傍ら個人で金融業も営んでいたが、昭和三二、三年ころから当時大利根ゴルフ場の敷地の買収に当たっていた訴外橋口四郎に対し土地の買収資金として四、〇〇〇万円から五、〇〇〇万円を貸し付けており、補助参加人の取締役をしていた原告も右貸付資金のうち三〇〇万円を出資していたこと、金井田与一郎及び原告が橋口から右貸付金の返済を受けたときに訴外倶楽部の株券を購入するように勧められ、それぞれ四五万円で株券一株ずつを買い受けたが、右買受けに当たって買受人名義を補助参加人にしておくことが接待用あるいは経理上よいと勧められ、金井田与一郎及び原告両者とも補助参加人名義で株券を買い受けたものにすぎず、実質上は訴外倶楽部の株主は金井田与一郎と原告個人であったことを供述する。

《証拠省略》によれば、訴外倶楽部の発行した株券を原告が所持していることが認められ、《証拠省略》によれば、補助参加人の決算報告書(昭和四七年度から昭和五〇年度)の財産目録及び貸借対照表(昭和五五年一二月三一日現在)には訴外倶楽部に対する株券(出資金)が記載されていないことが認められ、《証拠省略》によれば金井田与一郎は昭和四〇年二月ころ個人として営んでいた金融業の税務問題を処理した税理士麻生重雄に対し謝礼として訴外倶楽部から発行を受けた株券を譲渡したことが認められ、以上に認定した各事実は、訴外倶楽部から補助参加人が買い受けた株券は金井田与一郎及び原告が補助参加人の名義を利用して買い受けたもので、訴外倶楽部の実質上の株主は金井田与一郎及び原告個人であったことを推認させる。さらに、《証拠省略》によれば金井田与一郎及び原告が昭和三三年当時橋口に対し合計四、〇〇〇万円位の貸金を有していたことが認められ、右事実は原告本人の前記供述を裏付けるものであるし、また、証人山崎正市は金井田与一郎及び原告が個人で訴外倶楽部の株券を取得したが橋口の勧めにより株主の名義を補助参加人としていた旨述べ、原告本人の前記供述と同様の証言をしており、また《証拠省略》にも右と同様の記載がある。

以上の各事情を鑑みると、原告本人の前記供述は十分信用に値するということができ、そうすると、昭和三五年三月一五日補助参加人が訴外倶楽部から買い受けた二株の株券は、金井田与一郎と原告がそれぞれ自己の出費で名義を補助参加人として買い受けたものであり、実質上訴外倶楽部に対する株主は金井田与一郎と原告であったと認められる。

なお、《証拠省略》によれば、補助参加人が有していた日本自動車メーター株式会社の株券六〇株についても決算報告書の財産目録及び貸借対照表の資産として記載されていないことが認められるが、右株券については補助参加人が所持しており、補助参加人が所持していなかった訴外倶楽部に対する株券と日本自動車メーター株式会社の株券を同列にして論ずることはできない。また、《証拠省略》によれば、補助参加人は昭和四九年一〇月から昭和五七年三月まで大利根カントリークラブの会費を支払っていることが認められるが、《証拠省略》によれば、原告と当時補助参加人の経理部長であった松本良一との話合いで株券が補助参加人名義となっているためクラブ会費についても補助参加人が負担することにしたものであることが認められるのであり、右事実も金井田与一郎と原告が訴外倶楽部の株主であった事実を覆す事情とはならない。

二  《証拠省略》によれば、金井田与一郎は本件株券の、原告は株券番号あ第〇七九五号の株券の割当てを受け訴外倶楽部の株主となったこと、ところが金井田与一郎が昭和四〇年二月ころ麻生重雄に対し株券を譲渡した際誤って株券番号あ第〇七九五号の株券を譲渡したため、同年二月二〇日付けをもって原告の大利根カントリークラブの会員番号が〇七九五号から〇七九四号に変更され、昭和四二年四月には原告が訴外倶楽部から本件株券の交付を受けたことが認められる。

右認定の事実によれば、昭和四〇年二月ころ原告と金井田与一郎との間に株券番号あ第〇七九四号の株券と本件株券とを交換して原告が本件株券の所持者として訴外倶楽部に対する株主となる旨の合意が成立したものと推認し得る。

三  そこで、被告両名の不法行為の存否について判断する。

被告髙野が補助参加人の代表取締役、被告吉井は補助参加人の経理部長であったこと、被告髙野が昭和五五年一二月三日東京簡易裁判所に対し補助参加人名義で補助参加人が所有保管していた本件株券を紛失したことを理由に公示催告の申立てをなし、昭和五六年九月二五日除権判決を得て本件株券に代わる新株券の交付を受けて昭和五七年四月一七日これを第三者に売り渡したことは当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、《証拠省略》によれば、補助参加人が昭和五五年一〇月旧商号太平交通株式会社の経営権を取得してから被告髙野が代表取締役、被告吉井が経理部長となって太平交通株式会社(新商号補助参加人)の経営に携わり帳簿等を調査した結果、太平交通株式会社が大利根ゴルフクラブの会費を払っているのに株券が見当たらないことが明らかになり、被告髙野の指示により被告吉井が本件株券につき公示催告の申立てを行うために必要な書類の作成に当たり補助参加人名義で申立てをなしたこと、その際被告吉井は実際は補助参加人が本件株券を所持しておらずそれゆえ本件株券を紛失していないのに、公示催告申立てのための資料として必要である警視庁牛込警察署長からの証明書を得るために同署長に対し昭和五五年一一月二五日東京都新宿区戸山町の明治通り付近で本件株券を紛失した旨の虚偽の事実の届出を行い、さらに東京簡易裁判所に対し補助参加人の本店の移転に伴い帳簿や証券類を移動中に本件株券を紛失した旨の虚偽の上申書を作成したこと、本件株券につき公示催告の申立てをなすに当たって被告髙野及び同吉井は太平交通株式会社の総理部長であった松本良一に本件株券の所在を問い質し同人から右所在については良く知らないとの回答を得たほかは、原告を始めとして太平交通株式会社の従業員であった山崎正市や下平栄子にも右事情を確かめていないこと、被告髙野は昭和五六年九月二五日本件株券について除権判決を得たのち、同年一〇月三日訴外倶楽部から補助参加人に対し新株券の再発行を受け、これを昭和五七年四月一七日右事情を知らない第三者に転売して原告の訴外倶楽部に対し有する株主権及び大利根カントリークラブに対し有する会員権を喪失せしめたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

右に認定した事実によれば、被告髙野及び同吉井が補助参加人名義で公示催告の申立てをしたのは補助参加人が太平交通株式会社の経営権を取得して同被告らが太平交通株式会社の経営に携わるようになってからまもなくのことであり、いまだ同社の実情について十分把握できる状態ではなく、しかも太平交通株式会社が大利根カントリークラブの会費を負担していながら訴外倶楽部の株券が存在せず、太平交通株式会社の決算報告書の財産目録等にも本件株券の記載がなかった(前記一において認定)のであるから、被告両名において本件株式について公示催告の申立てを行う前に太平交通株式会社が本件株券を所持していない理由について十分調査を行うべきであったのに、原告を始めとして山崎正市や下平栄子に右事情を問い質すことなく松本良一から本件株券の所在は良く知らないとの回答を得ただけで、本件原告に属していた本件株券につき補助参加人に属するものとして公示催告の申立てを行い、しかも右申立てにおいて虚偽の内容を記載した文書を作成して東京簡易裁判所に提出し本件株券の除権判決を得た上で、補助参加人に親株券の発行を受けてこれを第三者に売却した行為は、原告の訴外倶楽部に対し有する株主権及び大利根カントリークラブに対し有する会員権を過失により侵害した違法行為であるというべきである(《証拠省略》によれば、被告吉井は公示催告の申立てを行う前に訴外倶楽部の東京事務所を訪れ、同倶楽部から本件株券の発行証明書を得ていることが認められるのであるから、その際同倶楽部に対し大利根カントリークラブの法人正会員名を問い質すことにより原告が本件株券について法人正会員になっていることが明らかになり、本件株券の所在について原告に聞くことにより本件株券を原告が所持している事情が容易に判明したと考えられる。)。

なお、《証拠省略》によれば、被告吉井は昭和五六年八月一日補助参加人から訴外日本駐車ビル株式会社に出向を命ぜられ、除権判決がなされた昭和五六年九月二五日には補助参加人に在籍しておらず、また、補助参加人が発行をうけた新株券を第三者に売却したことにも関与していないことが認められるが、被告吉井は被告髙野の指示を受けて被告両名共同の上十分な調査をしないで虚偽の内容を記載した文書を作成して公示催告の申立てを行うという違法行為を犯したものであり、公示催告の申立てにより除権判決を得ることができ、その結果被告髙野が補助参加人名義で訴外倶楽部から新株券の発行を受けこれを第三者に売却することにより本件株券の真実の所有者である者の権利を侵害することになるということは通常生じうる事態であり、被告吉井において右違法行為の当時十分予測することが可能であったと考えられる(《証拠判断省略》)から、被告吉井は被告髙野とともに補助参加人名義で訴外倶楽部から発行を受けた新株券を第三者に売却したことにより原告の有していた株主権及び会員権が侵害されたことにより原告が被った損害を賠償する責に任ずるというべきである。

四  次に、被告両名の主張1について判断する。

原告が昭和四〇年二月ころ補助参加人との間で本件株券の名義を補助参加人に預け同社の接待用として訴外大利根カントリークラブの会員権を無償で使用させる契約を締結したことは当事者間に争いがない。

しかしながら、本件全証拠によるも本件名義使用契約が原告が補助参加人の取締役を辞任した昭和五一年四月三〇日に原告と補助参加人との間で黙示的に合意解約された事実及び右時点で補助参加人の原告に対する本件株券の名義返還債務の期限が到来した事実を認めることができない。よって、原告の補助参加人に対する本件株券の名義返還請求権は時効により消滅したとはいえないから、被告両名の主張1は前提を欠き理由がない。

付言するに、原告の主張はそもそも被告両名が原告が訴外倶楽部に対して有する株主権及び大利根カントリークラブに対して有する会員権を侵害したということを主張する趣旨であると理解されるから、右侵害行為が存在せずさらに原告に損害が発生していないというためには、原告の補助参加人に対する本件株券の名義返還請求権が時効により消滅したという事実だけでは足りず、補助参加人が株主権及び会員権を時効取得した事実をも必要とすると考えられる。

五  原告が被告両名の違法行為により被った損害額について判断するに、原告が有する株主権及び会員権が滅失せしめられたことによる損害は原則として滅失当時のその物の交換価値によって算定されるべきであり、原告が有する株主権及び会員権が滅失せしめられたのは被告髙野が事情を知らない第三者に補助参加人が発行を受けた新株券を譲渡した昭和五七年四月一七日であるところ、《証拠省略》によれば、大利根カントリークラブの会員権の相場価格は、昭和五七年三月一日現在で一、七五〇万円から一、八五〇万円、同年四月一日現在で一、八〇〇万円から一、九〇〇万円、同年六月一日現在で二、〇〇〇万円から二、二〇〇万円、同年七月一日現在で二、一〇〇万円から二、二〇〇万円であることが認められるから、昭和五七年四月一日現在の相場価格をもって算定すべきであり、同年四月一七日当時の原告が有していた株主権及び会員権は少なくとも一、八〇〇万円の交換価値を有していたと認めるのが相当である。《証拠省略》によれば、被告髙野は昭和五七年四月一七日補助参加人名義で発行を受けた新株券を一、七〇〇万円で第三者に売却した事実が認められるが、右売却は被告髙野らが違法行為によって取得した新株券の売却であり、通常の相場よりも安い価額で売り急いだ可能性がないではなく、右売却価額をもって原告の有していた株主権及び会員権の交換価値と認めるのは相当でない。

《証拠省略》によれば、大利根カントリークラブの会員権の相場価格は昭和五八年以降騰貴していることが認められるが、本件全証拠によるも本件において原告が有していた株主権及び会員権が滅失せしめられたのちの時期における騰貴した価格をもって損害額を認定すべきであるとする特別の事情を認めることはできない。原告は原告が補助参加人との間の本件名義使用契約を履行不能により解除した昭和六二年一〇月五日当時の価格によって損害を算定すべきであると主張するのが、原告は本件名義使用契約の当事者には立たない被告両名に対し不法行為に基づいて損害賠償を請求するものであり、原告の右主張は採用の限りではない。

そうすると、被告両名の違法行為により原告が被った損害は一、八〇〇万円と認められる。

六  被告両名の過失相殺の主張について判断する。

被告両名は原告が昭和五〇年以降補助参加人に対して本件株券の名義の返還を請求し得る機会をたびたび有していながら一度も右返還請求権を行使しなかったのは原告の過失であると主張するが、原告の損害はもっぱら被告両名が共同して調査を十分行うことなく虚偽の事実を述べて除権判決を得て、その後補助参加人に交付された新株券を第三者に売却したことによって生じたものというべきであり、原告において被告両名が虚偽の事実を述べ公示催告の申立てをしていることを慮って補助参加人に対し本件株券の名義の返還請求権を行使する義務など認められず、原告が右返還請求権を行使しなかったことをもって過失があるということは到底できない。

七  以上によれば、原告の被告両名に対する本訴請求のうち金一、八〇〇万円及びこれに対する不法行為ののちである昭和六二年一〇月六日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金(被告髙野においても不法行為責任が問われるべきものであり、商事法定利率が適用されるべきではない。)の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田順司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例